取引先の一覧はある。名刺も保管している。それなのに、「あの会社とは今どんな話をしていたか」「次に誰が連絡するか」を確認しようとすると、メールや個人のメモを探すことになる。建設会社の営業で起きやすいこの状態は、入力の丁寧さだけが原因ではありません。性質の異なる情報を、一つの顧客一覧で管理しようとしていることが大きな原因です。
営業を動かすために、最初から高機能な仕組みは必要ありません。ただし、少なくとも「会社」「担当者」「案件」は分けて考える必要があります。この三つを分けると、過去のつながりを失わず、今動いている話と次の行動を追いやすくなります。
一枚の顧客一覧が行き詰まる理由
一枚の表に、会社名、担当者名、連絡先、案件名、見積金額、進捗、次回連絡日を並べる方法は、件数が少ない間は手軽です。しかし、営業が動き始めると同じ会社に複数の担当者が現れ、同時期に複数の相談が生まれます。
たとえば架空例として、A建設の工事部長とは協力会社登録について話し、現場担当者とは別の改修工事について打ち合わせているとします。一行を一社として管理すると、どちらの話を書くべきか迷います。案件ごとに行を増やすと、今度は会社住所や代表電話が重複し、担当者の異動時に複数行を直さなければなりません。
表が悪いのではなく、一行が何を表すのか決まっていないことが問題です。「一社につき一行」と「一案件につき一行」が混ざると、情報が増えるほど更新漏れが生まれます。
会社・担当者・案件は、それぞれ役割が違う
会社は、取引先そのものの情報
会社には、会社名、所在地、事業内容、自社との関係、受けたい仕事との相性など、相手企業について大きく変わりにくい情報を置きます。元請候補、協力会社候補、既存取引先といった区分も会社側の情報です。
ここでの目的は、「この会社と、なぜ関係をつくりたいのか」を見失わないことです。案件が一度失注しても、会社との関係まで終わるとは限りません。会社の記録が独立していれば、別の時期や別の工事で接点を持つ余地を残せます。
担当者は、誰と話しているかの情報
担当者には、氏名、所属、役割、連絡先、主な接点を置きます。同じ会社でも、経営者、工事部門、購買部門、現場担当者では、関心や判断できる範囲が違います。
会社名だけを残しても、実際に話した相手が分からなければ次の連絡はしづらくなります。一方、名刺情報だけでは、その人と何について話したかが分かりません。担当者を会社につなぎ、さらに関係する案件へつなぐことで、連絡先が営業の文脈を持ちます。
案件は、進んでいる話の情報
案件には、相談内容、現在の段階、概算時期、次の行動、担当者、期限を置きます。「協力会社登録の相談」「現場応援の打診」「見積依頼」など、相手との間で具体的に動いている話が案件です。
営業会議で確認したいのは、会社情報の更新よりも、案件がどこで止まり、次に何をするかです。案件を分ければ、一社で複数の話が進んでいても、それぞれに担当と期限を置けます。
最低限そろえる項目
最初から多くの項目を用意すると、入力が続きません。まずは次の項目で十分です。
会社
- 会社名
- 区分(見込み先、既存取引先など)
- 自社との関係や接点
- 営業対象にする理由
担当者
- 氏名、所属、役割
- 所属する会社
- 連絡手段
- 最後に接点を持った日
案件
- 案件名または相談内容
- 関係する会社と担当者
- 現在の段階
- 次の行動、その担当、期限
売上見込みや確度など、判断の基準が曖昧な項目は急いで足さなくても構いません。「確度A」の意味が人によって違えば、数字を入れても比較できないからです。まずは、事実として確認できる状態と次の行動をそろえます。
運用を崩さない3つのルール
1. 同じ情報を二か所に書かない
会社の住所を案件ごとに書いたり、担当者の電話番号を複数の表へ写したりすると、どれが正しいか分からなくなります。会社情報は会社、連絡先は担当者、進捗は案件というように、情報の置き場所を決めます。
2. 活動履歴と次の行動を分ける
「先方へ電話した」は過去の記録です。「来週、図面受領後に見積可否を返す」は次の行動です。活動履歴だけが並んでいても、仕事は前へ進みません。案件には必ず、次にすること、担当、期限を一組で置きます。
3. 週に一度、止まっている案件を見る
すべての項目を毎日更新する必要はありません。週に一度、期限を過ぎた案件、次の行動が空欄の案件、長く動きのない案件を確認します。会議では履歴を読み上げるのではなく、「続ける、待つ、いったん閉じる」の判断をします。
移行は、動いている案件から始める
過去の名刺や顧客情報を最初からすべて整理しようとすると、入力作業だけで時間がなくなります。まず、現在やり取りしている会社と、直近で次の行動がある案件だけを移します。運用して足りない項目が見えたら、その時点で追加します。
架空例として、現在動いている案件が十数件あるなら、それらに関係する会社と担当者から登録します。過去の接点は、再び連絡する必要が出たときに追加しても遅くありません。完成した名簿をつくることより、次の行動を迷わず決められる状態を先につくる方が実務に役立ちます。
利用する道具も、表計算、社内データベース、専用の営業管理ツールのどれでも構いません。大切なのは、道具の名前ではなく、三つの情報単位が分かれ、互いにつながっていることです。
自社の管理を見直す確認項目
次の質問に一つでも答えにくければ、顧客一覧の構造を見直す余地があります。
- 一社に複数の担当者がいても、関係を追えるか
- 一社で複数の相談が進んでも、案件ごとの状態が分かるか
- 担当者が変わっても、会社との過去の経緯が残るか
- 各案件に、次の行動、担当、期限があるか
- 失注や保留の案件と、会社との関係を分けて考えられるか
- 週次確認で、止まっている案件だけを取り出せるか
まとめ
顧客一覧は、取引先を把握するためには役立ちます。しかし、営業を前へ進めるには、会社、担当者、案件を分け、それぞれをつなぐ必要があります。会社は関係を残す場所、担当者は接点を残す場所、案件は次の行動を決める場所です。
すべての情報を一度に整える必要はありません。動いている案件から始め、「誰が、何を、いつまでにするか」を毎週確認できる形を目指してください。
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